NHKの人気番組「ブラタモリ」が、とうとう富山県にもやってきました。
今回タモさんが徹底探検するのは、富山県の人気観光地「黒部ダム」。黒部川第四発電所で発電されることから、黒四ダム(くろよんだむ)とも呼ばれます。
タモさんの知識は、かなりマニアックでめちゃくちゃ深くて面白い!
今回の黒部ダムについても、プロジェクトXで事前にかなり予習をしてきたようで、案内人が言おうとしたことをほぼ先回りで自ら話しだしていましたw
富山県民としても初めて知ることだらけ、勉強することだらけだったので、それらをまとめて整理してみました。
黒部ダムの観光に行く前に豆知識(マニア知識?)として知っておくと、一緒に行った人に説明できるし、何も知らずに見るより100倍くらい楽しめるはずです!
ちなみに黒部ダムへの行き方については、下記記事に詳しくまとめているのでこちらを参考に。
▶︎ 黒部ダムへの交通手段!行き方、料金、時間!富山から?長野から?
今回紹介する黒部ダムについての情報が載ったブラタモリの本も発売されています。
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黒部ダムができた理由と時代背景
黒部ダム(黒四ダム)ができた理由は、その当時の時代背景に由来します。
黒部ダムの建設が決まったのは、昭和30年(1955年)。建設工事着工は翌年の昭和31年(1956年)の7月。
昭和30年当時の日本は、戦後の復興期。産業が急速に発展している時代でした。そのため、深刻な電力不足に悩まされていました。
特に関西では、工場では週2日、一般家庭では週3日も、電力の使用が制限されている状態。
その状態を抜け出すための大プロジェクトが、水力発電用の巨大ダム(黒部ダム)を富山の秘境黒部に建設することでした。
黒部ダム建設により、建設前の発電量が約23万kwだったのに対し、建設後の発電量は約90万kw(2017年時点)と、大幅な発電量アップに成功。
黒部ダムHPには、黒部川第四発電所の年間発電量は10億kWh、黒部川全体の年間の発電量は約31億kWhとの記載があり、ブラタモリでの案内人との話とちょっと計算が合わない部分も…
でもとにかく、黒部ダムの完成は、関西への電力供給を増やし深刻な電力不足を解消、日本の高度経済成長を支えました。
黒部ダムの総工事費と工事期間
黒部ダム(黒四ダム)の建設に、どれくらいのお金と時間と人が投じられたか知っていますか?
黒部ダムは、昭和38年(1963年)に完成(竣工)しました。
黒部ダムの工事期間は7年。
作業員の延べ人数は、1000万人。
総工費は513億円。
数字があまりピンときませんが、黒部ダム建設は、東京タワーや青函トンネルと並ぶ戦後日本の一大事業といわれています。
管理・運営は、関西電力。ブラタモリの案内人の肩書きも「関西電力、北陸電力部土木グループ」の人でした。
黒部ダムの大きさ
黒部ダムの高さは186m、幅は550m。
ダムの中では、日本一の高さを誇ります!
黒部ダムの貯水量は、約2億トン。東京ドーム約160杯分の水を蓄えています。
1年間に4~5回水が入れ替わるので、約8億トン以上の量の水が黒部ダムに流れ込んでくる計算になります。
これだけの水が貯水できるからこそ、多くの電力を供給することが可能。
しかし水力発電において、水が多いだけでは効率的な発電はできません。落差も必要になってきます。
より多くの貯水ができ、発電のための落差を稼げるような立地の工夫がされ、その結果選ばれたのが現在の黒部ダムの場所です。
黒部ダムの発電について、この後の項目「黒部ダムの発電の秘密」でより詳しく記述していきます。
黒部ダムの場所
黒部ダムは、3000m級の山々に囲まれた富山県と長野県の県境の秘境にあります。
何県かといわれると富山県。なのですが、あまりにも山奥で富山から行く場合はかなりの時間と交通費がかかります。
ブラタモリでは、タモさん達は長野県の扇沢駅から黒部ダムへ向かっていました。
黒部ダムへの行き方の詳細については、次の記事にかなり詳しくまとめているので参考にしてください。
▶︎黒部ダムへの交通手段!行き方、料金、時間!富山から?長野から?
長野から黒部ダムへのトロリーバスは日本唯一
長野県側から黒部第四ダムへ向かうときは、関電トンネルトロリーバス(愛称トロバス)を利用します。
トロリーバス
道路の上の電線からとった電気で走る乗り物。昭和40年代は全国で活躍していたが、交通渋滞の原因となったので全国から姿を消した。現在日本では、長野から黒部ダムへ向かうルートでのみ運行している。
トロリーバスってなんとなく聞いたことがある気がしますが、今回初めてちゃんと知りました。
しかも、平成30年(2018年)の11月で廃止になり、電気自動車に変わるようです。トロリーバスも電気自動車も、長いトンネルの中を走ることを考えると、排気ガスを出さないので環境にいいのだと思われます。
トロリーバスに乗るには、長野県側から黒部ダムへ行くしかないありません。
長野側からのトンネルは、工事用だった
長野県側から黒部ダムへ向かうトロリーバスは、全長5.4kmのトンネルを通ります。
このトンネル、黒部ダムへの観光客のためだけにわざわざ掘ったトンネルではありません。
黒部ダムへ資材や人材を運んでいた工事用トンネルを、現在は観光客用の交通トンネルとして利用してます。
ブラタモリの中では、もちろんタモさんはすぐに分かってた!
トンネルを3kmほど進むと、青い電気の場所が出現。ここは当時の破砕帯だったという特別な意味があります。
トンネル工事の大変さを日本中に広めたキッカケ
黒部第四ダム(黒四ダム)への長野側からのトンネル工事は、かなり大変な工事でした。
それを日本中に広めたキッカケは、1968年公開の黒部ダム建設を描いた映画「黒部の太陽」。
石原裕次郎と三船敏郎が共演し、観客動員766万人、興行収入16億円(現在の約80億円)を記録した映画です。
黒部の太陽の感想レビュー
ブラタモリを見て、早速DVDで黒部の太陽を見てみました。
黒部ダムへのトンネルを掘るのに、男たちが命をかけてのぞむ様子がリアルに描かれていて、黒四ダムへの理解がさらに深まりました。富山と長野の間にあるフォッサマグナと、破砕帯工事の困難さがかなり詳細に分かり、本当にすごい工事だったんだと実感します。
でも196分と長時間の上に、開始10分ほどで人が立山から滑落していったりと、思っていた以上にヘビー…
面白いのですが、軽い気持ちでは見られない感じです。でも、黒部ダムに行く前に見ておくと、楽しさが倍増するのでオススメです。
黒部ダム工事が大変だった理由とは?
黒部ダムの工事には、準備に3年、実際の工事に4年の歳月を費やしています。
どうして、そこまで大変な工事だったのでしょうか?
3000m級の山々に囲まれた谷
黒部ダムの場所の項目でも書いたように、黒部ダムは3000m級の山々に囲まれた富山県と長野県の谷にあります。
現地に行くには、富山側からか長野側のどちらかから向かうしかありません!
現在でも富山側から行くとなると、立山駅からケーブルカーやバスなどを乗り継いで片道約2時間半かかります。長野側からは、現在はトンネルがあるのでトロバスで片道約15分で行くことができますが、その当時はトンネルがありませんでした…
当時は富山側から歩いて行くか、長野側からはトンネルを掘るしかありません。それだけで、この工事の大変さが分かるはずです。
上の写真は富山側からのもので、道無き道を大勢で工事現場まで進んで行きます。道具や荷物を担いでこの悪路を進み、現地で機械を組み立てていたことになります。
実際にダム工事を始めるまでに3年もかかったことも、納得がいきました。
きっと大勢で荷物を分担して担ぎ、数日かけて現地に向かったはず。その途中で当然滑落事故なんかもあったんじゃないかなぁ?
長野側のトンネル工事と破砕帯
長野県側からは、黒部ダムまでトンネル工事。
黒部第四ダムへのトンネル工事は、1日9mのペースで順調に進行していました。
しかし、破砕帯との遭遇で自体は一変。
破砕帯
岩盤が細かく砕けて砂のようになった柔らかい地層。崩れやすい上に、そこに溜まっていた地下水があふれ出す。
この破砕帯の突破が最大の難所となりました。
破砕帯は距離にして約80mほどしかありません。しかし、この80mの破砕帯を突破するのに7ヶ月もかかったとのこと。1日平均にすると約38cm。
1日9mで進行していた工事が、約24分の1の効率になったのです。
映画「黒部の太陽」でもその大変さ、天井から岩盤が崩れ落ち、身も凍るような水が濁流となって襲いかかるシーンとしてが描かれています。
破砕帯からの地下水を作業員が浴びると、あまりの冷たさに手がかじかんで、1時間以上は作業ができなかったとのこと。
当時の工事現場の作業員は、「まるで水を掘っているようだ」との証言もしています。
黒部の太陽を見ると分かりますが、破砕帯の水を抜くためにパイロットと呼ばれる本坑とは違う小径のトンネルを10本、総距離500mも掘っています。さらにそのパイロットから大口径ボーリング129本、総距離2900mも掘って、破砕帯の水を抜くような作業を行なっています。
破砕帯の水は、雪解けと共にまた復活するので、制限時間も決まっていました。
このように長野側からの黒部第四ダムへのトンネル工事は、かなり大変な工事だったようです。しかし地道な工事を続け、着工から1年7ヶ月後に、富山側から掘り進めていたトンネルと繋がり、ついに貫通。
現在は、破砕帯の湧水はペットボトルに入れられて販売されています。
黒部ダムの発電の秘密
そもそも黒部ダムは、なぜ準備だけで3年もかかるような山奥の秘境に建設しなければならなかったのでしょうか?
それは前半でもちょっと触れたように、水力発電でより多くの電力を発電するために「水」と「落差」が必要だったからです。
水を貯めやすい地形
写真のように黒部ダムは、上流が広く、下流が狭くなっています。
このように広大な水を貯めるための水瓶を確保できる理由は、その地質にあります。
ブラタモリでは、タモさん達は船で両岸の岩を回収してその地質を調べていました。
黒部ダムの水瓶部分から採取した岩は、両岸とも花崗岩。左右の岸で同じ地質。
両岸が同じ地質なので、黒部川による浸食が均等になり川幅が広くなります。
このような地質の場所に建設されているので、黒部ダムは2億トンもの膨大な量の水を貯水できます。
落差を得やすい地形
水力発電に必要なもう一つの大事な要素が、取水口から発電所までの落差。
ところで、黒部第四発電所はどこにあるのか分かりますか?
もしかしたら、放水されている水の近くにあると思っている人がいるかもしれません…
実は黒部第四発電所は、黒部ダムの近くにはありません。
なんと、黒四ダムから10kmも離れた地点にあります!
そこまで離れた地点にあるとはちょっと驚き。みんな知ってました??ちなみにタモさんも結構びっくりしてました。
黒部ダムでは10kmも離れた所に発電所を作ることで、なんと545mもの落差を得ています。333mの東京タワーが余裕ですっぽりと入る高さ。
黒部川の河川勾配図を見ると、大きな水瓶と急勾配による落差を得るために、ここしかない!って場所に黒部ダムが建設されていることが分かります。
準備に3年もかかってしまうデメリットがあっても、それよりも発電のための「水」と「落差」のメリットが、この黒部川の秘境にはあったです。
黒部峡谷の奇跡の地形
ブラタモリの2回目の放送では、黒部峡谷の奇跡的な地形についての説明がありました。
これが黒四ダムのある黒部峡谷の地形図。
北アルプスの黒部峡谷は、3000m旧の立山と後立山が、連なるように近距離にあることで出来上がっています。
実はこれ、普通ではありえない地形なんです。
ちなみに後立山(うしろたてやま)ってのがあることを、ブラタモリで初めて知りました。
北アルプスと比較して、中央アルプスと南アルプスの山々はこのように離れています。
通常は高い山の周りには、広い裾野が広がっています。しかし、北アプルスはそうはなっていません。
黒部峡谷の奇跡の地形の成り立ち
黒四ダムのある黒部峡谷周辺は、ちょうど2つのプレートが重なり、通常よりも多くのマグマが発生する大変珍しい場所。
マグマで柔らかくなった地面に、2つのプレートが左右から圧力をかけることで地面が盛り上がります。
そうして高くなった地面は、3000m級の山になります。
その状態からさらに左右からの圧力がかかると、高い山に裂け目ができてきます。隆起と侵食が同時に進行しているのです。
その裂け目が雨や雪で浸食され、裂け目がどんどん大きくなります。
そうやって出来上がった2つの山が、3000m級の立山と後立山。だから2つの高山が、これだけ近い距離にできました。
その2つの山に挟まれた黒部峡谷に黒部ダムを建設したので、広い水瓶と落差を得られたというわけ。
普段は身近に感じていた立山だったのですが、このような経緯をへて出来上がった山だとは全然知りませんでした…
今度立山登山をするときは、ちょっと意識してみましょう!
秘境ならではの黒部ダムの構造
黒部ダムの構造を知る前に、基本的なダムの構造を知っておくと理解が早いです。
メジャーなダムの構造は次の2つ。特に難しい話ではないので、さらっと見てみてください。
アーチ式コンクリートダム
主にコンクリートを主要材料として使用し、アーチ止水壁にかかる水圧を両側面の岩盤で支える型式のダム。 上空から眺めると河川を横断する堤体が弧を描くように見える。 略してアーチダムともいう。
重力式コンクリートダム
主にコンクリートを主要材料として使用し、コンクリートの質量を利用しダムの自重で水圧に耐えるのが特徴である。膨大なコンクリート量が必要であり、アーチ式コンクリートダムほどは条件は厳しくないものの花崗岩・安山岩等基礎岩盤が堅固な地点でないと建設することができない。
ダムは大量の水を貯めるので、その圧力に勝る構造にしなければなりません。
水の圧力に耐える方法で分かりやすいのが、大量のコンクリートの重さで耐える重力式コンクリートダム。デブとガリでどちらが動かしやすいかを考えれば、なんとなく想像がつくと思います。
ちょっと分かりづらいのが、アーチ式コンクリートダムではないでしょうか?ブラタモリは、実に分かりやすく説明していました。
ダムの形がまっすぐだった場合の耐久性の弱さの説明。
横にある本が山、紙がダム、お金が水と見立てて見てみてください。ダムをただまっすぐに設置しただけでは、水に押されてすぐに決壊してしまいます。
先ほどの図と比べると、イメージしやすいはず。
アーチダムの場合、水の圧力を左右の山を押す力に変換できるので、耐久性が増します。
黒部ダムはアーチ式と重力式の複合ダム
黒部ダムは、単純な構造ではなく、写真のようにアーチ式ダムと重力式ダムの両方が採用されています。
でもなぜ単純なアーチ式ダムにできなかったのでしょうか?
その理由は、黒部ダムのすぐそばにある谷にあります。
すぐそばに谷があるせいで、単純なアーチダムにしてしまうとその力を支えきれないのです。
そこで取られたのが、黒部ダムのアーチの部分を前傾にして、水の圧力をなるべく下方向に向ける方法。
圧力を下方向へ逃せば、近くの谷の影響は受けません。
黒部の秘境に大量のコンクリートを運ぶのは大変なので、本当は全部アーチ式コンクリートダムにしたかったのですが、谷があって無理でした。
そのために仕方なく、アーチの端の方だけ重力式コンクリートダムにして、なるべく少ないコンクリートでダムを建設したというのが現状。
このような工夫の過程を知ると、ダムが面白いという人たちの気持ちもほんの少しだが分かってくるはずです。
橋もそうですが、人間ってすごいものを作り上げる力を持っていますよね。
黒部ダムの放水の秘密
ブラタモリでは、黒部ダムの放水の秘密についても説明してくれていました。
なぜ黒部ダムは、水を霧状にして放水しているのでしょうか?
まず黒部ダムの放水は、今まで説明した通り発電のためのものではありません。観光放流の放水で、あくまで観光客のための放水です。
そしていつでも放水を行なっているわけではなく、毎年6/26〜10/15までの期間のみ。
冬の期間は水が少なく、放流すると水が凍ってしまうので、放水は行なっていません。
霧状にして放水するのは、霧にして放水した方が虹が出やすいから!ではなく、普通に放水すると下の地面がえぐれて地形が変わってしまうからです。
まとめ
富山県の有名な観光スポット「黒部ダム」。
ミシュラングリーンガイドでも「わざわざ旅行する価値がある」とされる星3つを獲得しています。
▶︎ミシュランおすすめ、富山の観光地45地点!星3つはどこ?富山観光の参考に
ブラタモリを見て思ったのですが、これだけ詳しく黒部ダムのことを知っていた人はほとんどいないんじゃないでしょうか?
1つのダムだけど、命をかけた土木工事の土台の上に様々な工夫が詰まっているダム。
黒部ダム観光に行く前に、この番組で事前に知識を蓄えることができて良かったです。
個人的には、「黒部の太陽」も見てから行った方が、絶対に面白いと思います。
気をつけないといけないのは、黒部ダム(黒四ダム)の放水が見られるのは、6/26〜10/15までの期間のみだということ。時期を間違えて、「行ったけど、放水が見られない時期だった」なんてことのないように!
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