富山のシネコンで上映決定
ドキュメンタリー映画『はりぼて』。
政務活動費の不正問題で富山市議14人がドミノ辞職した話を題材とした映画。
東京では2020年8月から公開していましたが、地元富山県では10月31日(土)にようやく公開されました。
僕が見たのは、監督の舞台挨拶付きの上映。
映画『はりぼて』の制作者の声を直接聞けたのは、すごく満足度の高い体験でした。
興味深い話だったので、舞台挨拶時の監督の話を含めて映画『はりぼて』についてまとめてみました!
映画『はりぼて』とは?
長々と読むのは大変だと思うので、映画『はりぼて』についてざっくりとまとめてみました。
- (ブラック)コメディ映画
- 富山市議会議員の政務活動費不正問題が題材
- チューリップテレビが制作
- 人間の性をすごく感じる
- 議員、マスコミだけでなく自分自身のハリボテにも気づく
- スッキリ答えがでるわけではなく考えさせられる
- ローカル局の社員達の熱意や挑戦を感じる
個人的な感想だけど、大きくは間違ってないかなと思います。
あらすじ
もう少し内容に踏み込んでみましょう!
公式HPには次のようなあらすじが書いてあります。
富山県の小さなテレビ局が地方政治の不正に挑み、報道によって人間の狡猾さと滑稽さを浮き彫りにする様子を描いたドキュメンタリー。市議14人をドミノ辞職に追い込んだ「政務活動費を巡る調査報道」で日本記者クラブ特別賞などを受賞した富山のローカル局チューリップテレビが、その後3年間にわたって取材を重ね、テレビ番組放送後の議会のさらなる腐敗と議員たちの開き直りともいえる姿を追う。
2016年、チューリップテレビのスクープ報道により、「富山市議会のドン」といわれる自民党重鎮の不正が発覚した。これを皮切りに議員たちの不正が次々と判明し、半年間で14人もの議員が辞職する事態に。富山市議会はその反省をもとに厳しい条例を制定するが、3年半が経過した2020年には、議員たちは不正が発覚しても辞職せず居座るようになっていた。そんな議員たちを取材し、政治家の非常識な姿や滑稽さを目の当たりにしていく記者たちだったが……。
引用:ほとり座「はりぼて」
不正を犯してしまった議員を正義の名の下に一方的に責める内容の映画ではなく、あらすじの最後にも書いてある「記者たちだったが……」の部分がこの映画の大きなポイント。
はりぼての意味
今回の映画のタイトル「はりぼて」には次のような意味があります。
(比喩的に)見かけは立派だが、実質の伴わないことやもの。
引用:コトバンク
映画を見ると分かりますが、富山市議だけでなく、マスコミ、そして自分自身もハリボテなんじゃないかと思わされる作品に仕上がっています。
富山市議会議員の政務活動費不正利用
映画『はりぼて』の発端になった事件。
2016年、富山市議会議員による政務活動費の不正問題による14名のドミノ辞職。
どの議員が辞職したのか、富山市議会議員の議員報酬はどれくらいなのか、政務活動費とはどんなお金なのか、などについて分かる記事をピックアップしました。
興味がある人は一度のぞいてみてください。
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スタッフ
映画『はりぼて』をこの世に送り出したスタッフは次のとおりです。
【監督】
五百旗頭幸男、砂沢智史
【撮影・編集】
西田豊和
【プロデューサー】
服部寿人
【語り】
山根基世
【声の出演】
佐久田脩
【テーマ音楽】
はりぼてのテーマ 〜愛すべき人間の性〜
【作曲・音楽】
田渕夏海
【音楽プロデューサー】
矢崎裕行
#ほとり座 の田辺和寛代表との舞台挨拶。
ほとり座は、休館したミニシアターに富山市が補助金を投入して再開された劇場。富山市の支援を受ける劇場で富山市議会の不正問題や富山市長の政治姿勢を問う映画が上映できている。「健全な民主主義」を体現する劇場が我が町にあることが誇らしい。#はりぼて pic.twitter.com/mIBrVZDsJ6
— 五百旗頭幸男 (@yukioiokibe) November 8, 2020
映画 はりぼて|上映館
映画『はりぼて』公式HPに載っている2020年11月現在の上映館は次のとおり。
- 北海道
なし - 東北エリア
青森:青森松竹アムゼ、シネマヴィレッジ8・イオン柏 - 関東エリア
東京:アップリンク渋谷、CINEMA Chupki TABATA - 甲信越・北陸エリア
富山:ほとり座 - 東海エリア
三重:三重伊勢進富座本館 - 近畿エリア
なし - 中国・四国エリア
なし - 九州・沖縄エリア
なし
富山県で映画『はりぼて』を見る場合は、総曲輪のほとり座へ。
▶︎ほとり座
映画 はりぼて|舞台挨拶の感想
今回僕が映画『はりぼて』を見たのは、富山市総曲輪通りにあるミニシアターほとり座。
尖った映画を沢山上映している面白い映画館。予約が取れたので、舞台挨拶付きの上映を見ることができました。
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はりぼての舞台挨拶を何回も開催していて、そのほぼ全てが満席になっています。
ちなみに、チケット購入に列ができ当日キャンセル待ちも出るほど大人気。
舞台挨拶は映画上映後に行われて、映画の内容を知った上で監督の話を聞いたり質問したりできました。
長々と書いてもあれなので、舞台挨拶の話の中で個人的にすごく興味深く感じたことをピックアップしてみました。
- マスコミにはエリート精神というか「情報を届けてやっている」というおごりみたいなモノがある
- チューリップテレビは富山でも小さなTV局で、エリート意識みたいなものは1mmもなかった
- 不正を犯した議員はもちろんダメなんだけど、どこか憎めない人間性を感じる
- 明確な答えを提示するのが映画やTVという固定概念があるのではないか?観た後に何かモヤっとしたものが残り、自分で考えたり誰かと話し合ったりする作品にしたかった
- 同業他社から「うちではこんなことはできません」といわれるが、それは違う
- この映画で描いている以上のことは描くと公開できなかった。組織を忖度している時点で僕たちもハリボテなんです
- 少なくとも誰かの人生を狂わせてしまっているんですよね
- 議員が市民の代表ではなく、地域の代表になってしまっているのではないか?
- この作品を世に出してくれた服部プロデューサー達の存在
それぞれもう少し詳しく説明していきます。
マスコミにはエリート精神というか「情報を届けてやっている」というおごりみたいなモノがある
皆さんもあると思いますが僕も、すごい上から目線でくる記者、一般市民を完全に邪魔して撮影しているカメラマン、沢山見てきました。
マスコミの中にも自分たちのその姿を意識している人がちゃんといることに少し驚き…。
現代の若者のテレビ離れや、YouTubeやSNSへの広告費の流出、テレビ番組の信用のなさなどに気づいて危機感を持っている人が、マスコミの中にもちゃんといるということに少し嬉しさを感じました。
チューリップテレビは富山でも小さなTV局で、エリート意識みたいなものは1mmもなかった
マスコミって一括りにしてしまっていましたが、富山県内のマスコミ間でも力関係みたいなモノの違いがあることを初めて知りました。
不正を犯した議員はもちろんダメなんだけど、どこか憎めない人間性を感じる
映画『はりぼて』の良さは、絶対的正義の立場から不正を犯した議員を叩いていないことです。
映画を見てもらうと感じるのですが、議員の人間性や嘘をついてしまう状況や立場などといったモノが節々に表れています。
「自分がこの議員の立場だったら同じ過ちを犯したかも…」「選んだ僕たちにも責任はあるし、何もしないで全てを丸投げしている自分たち富山市民にも今回の事件の責任はあったのではないか?」と、思わさせられます。
明確な答えを提示するのが映画やTVという固定概念があるのではないか?
観た後に何かモヤっとしたものが残り、自分で考えたり誰かと話し合ったりする作品にしたかった
すごく簡単にいうと多くの人は、スッキリしたい&笑いたい&ハラハラしたいなどの理由で映画やテレビを観に行くのだと思います。
だから勧善懲悪のように、悪を正義が倒すという分かりやすい構成で作られます。収益を上げないといけないので、多くの人に届けるためには効率的であり、当たり前の流れです。
でも実際の人間や人生は、そう単純ではありませんよね? 好きなのに傷つけるし、自分の利益を守るために平気で嘘をついたりする。
映画『はりぼて』は、観終わった後に誰かと感想や意見を言い合いたくなる構成で作られています。誰かと意見を交わすことは、自分たちの住む地域や会社、家庭を良くするためにかなり重要なことだと思います。
同業他社から「うちではこんなことはできません」といわれるが、それは違う
会社だけでなく人生でも似たような部分があって「歳だからできない」「お金がないからできない」って意見を良く聞きます。
でもそれは、組織を忖度しているだけだったり、傷つかないための精神的バリアを自分自身で勝手に作っているだけだったりすることが多いです。
60歳からプログラミングを始めて世界に注目されている人もいます。
自分の可能性を閉じてしまっているのは、自分自身であることも多いです。
この映画で描いている以上のことは描くと公開できなかった。組織を忖度している時点で僕たちもハリボテなんです
監督本人から出た言葉だったので、とても印象深かったです。
趣味や自己満足で作った映画だったらいいのかもですが、世間に届けて初めて影響が出ます。
もちろんある程度お金を稼がないと、今後映画を制作していくこともできません。
自分自身のこともちゃんと「はりぼて」と言える人柄、すばらしいと思いました。
少なくとも、議員さんの人生を狂わせてしまっているんですよね
五百旗頭監督の一言。
人としてすごく好きだと感じました。
勝手な想像ですが、この報道は議員のその後の人生をガラっと変えることを理解しながら、マスコミとして報道しなければいけないことを自覚している。
スクープで目立つ儲かるとかではなく、ジャーナリズムとしてここで忖度があってはならないという覚悟と責任をすごく感じる言葉でした。
議員が市民の代表ではなく、地域の代表になってしまっているのではないか?
これ、富山ではめちゃくちゃ実感することです。
自分の住んでる地域や地区にしっかりお金を引っ張ってきてくれるかどうか。町内の集まりなんかでも良く聞く意見。
もちろん気持ちは分かります。富山市は様々な地区が集まってできていることも分かります。
でも、もしかしたら「富山市を良くしよう」ではなく「自分たちの地域だけ良くなればいい」といった想いが、今回の事件を引き起こしてしまったのかも?と考えてしまいました。
この作品を世に出してくれた服部プロデューサー達の存在
ちょっとネタバレになってしまうのですが、五百旗頭監督は映画制作後にチューリップテレビを退職して他のテレビ局に転職しています。
砂沢監督は社長室兼メディア戦略室に異動になっています。
そんな中で映画『はりぼて』は、チューリップテレビの制作として世の中に発表されているのです。
表には見えないですが、裏で動いてすごい苦労した人物が服部プロデューサーだったのだと思います。
映画 はりぼて|よくある質問
映画『はりぼて』について僕自身が疑問に思っていた部分、舞台挨拶時の質問などで出てきたモノをまとめてみました。
政治家や富山市などからの圧力はなかったのか?
監督一同「全くなかった」とのことです。
あとミニシアター「ほとり座」のすごいところが、市からお金が出ているにも関わらず忖度せずに『はりぼて』みたいな映画を上映していること。
市のお偉いさん方達も試写会で事前に内容などを知っているにも関わらず、現在普通に上映されているということは特別な圧力はなかったってことですよね?きっと。
そういった理解がある人が、富山市の行政の中にもちゃんといるということが希望です。
いつ映画にしようと思ったのか?
映画を作るというのは、五百旗頭さんがチューリップテレビの試験で論文として提出していたこと。
実際に映画化が決まったのは、2019年の春。元々映画化するように撮影したわけではなかったので、追加で取材や撮影をしたとのことです。
そして実は映画に着手する直前に五百旗頭監督は、チューリップテレビを退職することを決めていたそうです。
映画『はりぼて』を観たチューリップテレビの社員はどんな反応だったの?
チューリップテレビ社内での試写会。
多くの人が鑑賞したのですが、見終わったあと半分以上の社員が何も離さずに帰っていった。手放しで「面白かった」といってくれる人はいなかったそうです。
社員さんもすごく複雑な感情だったのではないでしょうか?
それでも公開したチューリップテレビは、正直すごいなと思ってしまいます。
どうして14人もの議員が辞職する自体になってしまったのだろうか?
議員は市民の代表として選ばれているのだから、悪いことをするわけがない。丸投げで任せておけばいい。
良くわからないこと、自分たちの自治体に関わることを全て人に丸投げして任せすぎるという感覚が、僕たちの中にあったのかもしれません。
政務活動費は満額使う、領収書だけ提出すればお金が出てくる、といった今までの慣習や先輩の教えでそもそも悪いこととも思わずに行っていたのかもしれません。
議員への遠慮や忖度で内部でのチェックがほとんどされていなかったり、情報公開請求の事実が議員に漏れたりといったこともあったようです。
映画内では、自民党から「まだまだ不正の事実は出てくる」という言葉が出ています。
映画 はりぼて|感想
映画『はりぼて』の内容について、個人的に感想を少しまとめてみました。
- 政治家も人間だと気づいた
- マスコミの見方が少しだけ変わった
- チューリップテレビの印象がよくなった
- 自分のハリボテ感を実感した
政治家も人間だと気づいた
SNS、YouTube、ブログ、ネット上で見ている人と実際に会うと全く違う印象をうけることが多いです。
これは特別な話ではなく、会社で仕事をしている時と自宅でノンビリしている時で気持ちや表情が全く違うってことは多くの人に当てはまりますよね?
今更ですが、政治家さんも同じだなと思いました。
様々な期待や重責を背負って「議員」をやっている以上、「仕事モード」って必ずあるはずです。
だからといって違法なことをしていいわけではないですが、人間の行動や思考の矛盾みたいな人間の弱さでもあり、愛らしさでもある部分をすごく感じました。
マスコミの見方が少しだけ変わった
今まで接してきた人であんまりいいイメージがなかったので、「マスコミ」というだけで嫌っている自分がいました。
でもこれって「中国=嫌い」みたいな全てを無視した、感情だなと今回実感しました。
マスコミの中にも『はりぼて』製作陣のように熱くてかっこいい人は必ずいます、もちろん中国人の知り合いにもいい人がいます。
何かを一括りにして「悪」みたいな考え方は危険。映画『はりぼて』を通じて「マスコミ」へのイメージが少しだけ良くなりました。
チューリップテレビの印象がよくなった
富山テレビも北日本放送もチューリップテレビも、みんな同じ「テレビ局」。そんな風に思っていましたが、その中でも会社の大きさや力関係などがあることを初めて知りました。
もちろん様々な計算の上でメリットがあるからだと思いますが、映画『はりぼて』を自社制作として発表できるチューリップテレビの姿勢に対して印象が良くなりました。
自分のハリボテさを感じた
映画『はりぼて』を見て、一番実感したのは自分自身のはりぼて感です。
富山の地域情報サイトといいながら、どこまで本気なの?ホントに富山を紹介できてるの?意味あるの?
自分の中から様々な疑問が生まれてきて、ハリボテ感が身に染みる…
でもそのおかげで、考えていたことを実行する覚悟ができました!
まとめ
映画『はりぼて』についてまとめてみました!
富山市議会議員の不正問題というナイーブな題材にも関わらず、一方的な勧善懲悪で終わらず市民に疑問を投げかける構成で作られていてすごく良かったです。
人口減少のこれからの時代、全ての人にメリットがある選択肢も少なくなってくるはずです。その中で市民と一緒に「何がベストorベターか」考えていくことが大事。
TVやSNSなどで、ただ答えっぽいことを与えられているだけではまた似たような事件が起こるような気がします。市民や県民みんなで考えていけたらいいですよね?
映画『はりぼて』はきっとシネコンみたいな大きな映画館では上映されなかったはずです。メジャーや興行収益だけに囚われない「ほとり座」のようなミニシアターが富山の街にあって良かったなと思いました。
富山県内で映画『はりぼて』を見たい人は、総曲輪通りのほとり座へ!
▶︎▶︎ほとり座